2009年にすでに私が確認した事実が、漸く記事となって出てきました。
これからは、治療ではない施術でヘルニアの痛みも良くなるという時代になりそうです。
腰痛やヘルニアの痛みで苦しまれているプロゴルファーの方やトップアスリートの皆様への朗報です‼️
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椎間板ヘルニアが神経を圧迫する原理を考え直す
そもそもヘルニア自体が本当に神経を物理的に圧迫して神経損傷が起こるのか?ということを考え直したほうがよいでしょう。私たち整形外科医は椎体の高位では神経の損傷は起こらず、椎間板の高位で神経が何らかの損傷を受けると習います。しかし解剖学的事実はそうではありません。
椎間板の高位には後方要素として黄色靭帯は存在せず、椎間関節は正中からかなり離れた側面に位置し、その後方スペースは全脊柱管の断面積の中でもっとも広くなっていますfig.04。つまり椎間板の高さで正中に大きなヘルニアが出現したとしても、神経がサンドイッチされて圧迫を受けることはまずあり得ません。 <fig.04 足元から馬尾がヘルニアで圧迫される模型図> L5の神経が1本のみ単一に圧迫されるのは物理的に不可能に近いというだけでなく、実を言うと椎間板が突出する高さの脊柱管はその後方スペース(青い矢印)がかなり広く、かなり大きなヘルニアが突出していても神経が圧迫されることはありません。圧迫されたら神経は後方に寄るのみです。
神経が圧迫されるための後方圧迫要素がほとんど存在しません。ですから突出したヘルニアが神経を圧迫するという発想を考え直さなければならないのです。
何度も言うように、馬尾はすだれ状になっており、小豆大サイズのヘルニアが正中に突出したとしても神経はたやすく後方によけてヘルニア塊を避けるので、神経が圧迫されるなどということは物理的にあり得ませんfig.04。
また、ヘルニアが出現する高さには後方圧迫要素としての黄色靭帯も存在していませんfig.05。しかし図説本のイラストでは、あたかも黄色靭帯さえ椎間板の高さに存在するかのような誤解を与えるものとなっています。
これらの解剖学的位置関係は「椎間板ヘルニアは下方になだれ込むようなextrusionタイプのものでない限り」、ヘルニアがある特定した神経を挟んで圧迫するという芸当はかなり難しいということを示しています。しかも圧迫するためにはかなりの大きな容量のヘルニア塊が必要になりますfig.06 fig.07。 <fig.05 ヘルニアが出現するレベルの後方スペース> 黄色靭帯が存在する個所はヘルニアが出現する場所(椎間レベル)よりも若干下方です。赤く示しているのが後方要素の位置関係で、解剖学的に椎間の高さは後方スペースがもっとも広いという特徴があります。この場所に多少大きめのヘルニアが突出したとしても馬尾神経が強く圧迫されることはとても考えにくいことです。
<fig.06 大きなヘルニア塊が馬尾を直接圧迫する様子> ヘルニア塊が馬尾を直接圧迫するためにはこのくらい大きなヘルニア塊が椎間ではなく椎体の下方になだれ込む状態でなければ不可能です。どのくらい大きいかを見たものがfig.07。 <fig.07 fig.06で使用したヘルニア模型でのヘルニア塊> fig.06で使用した紙ねんどの大きさがわかるように椎体の模型と比較したもの。ヘルニア塊は脊柱管の断面積よりもはるかに大きな断面積および容積であることがわかります。椎間板の高さでの後方スペースは想像以上に広く、そのスペースで馬尾を直接圧迫するためにはこれほどの容積を必要とします。これ以下のヘルニアの容積では正中からの直接圧迫は不可能です。
正中に突出するヘルニア塊により馬尾を直接、物理的に圧迫するためには実際、あまりにも大きなヘルニア容積を必要とします。このヘルニアをMRIで検査すれば、おそらく脊柱管を埋め尽くしても埋まらないような大きさとして映るでしょう。しかし、臨床的にそこまで大きなヘルニアを見たことがあるでしょうか?もちろんいないとは言いませんが、多くのヘルニア患者は小豆大のサイズでも神経症状を呈していたはずです。
ではなぜ、直接圧迫できないくらいの小さなサイズでヘルニアの症状が出るのだろうということについて考えなければなりません。いや、考え直さなければなりません。少なくともヘルニアが神経を直接圧迫することによって神経が損傷するという考え方は早々に改めなければなりません。
それと同時に、大きなヘルニア塊が存在していても無症状の人。全くヘルニアが存在しないのに激しい痛みを訴える人がいることについて真摯に受け止め、考察していく必要があるでしょう。少なくとも、従来私たちが教わっていた正中ヘルニア、外側型ヘルニアなどの原理だけでは説明がつかないのですから、その事実からいつまでも逃げていてはいけません。
椎間板ヘルニアでの神経損傷のメカニズム
ヘルニア塊での直接圧迫により馬尾が損傷を受けるという考え方はあまりにも理論からかけ離れています。その理由は
- 椎間高位では後方スペースがあまりにも広いのでヘルニアで圧迫を生じさせるためには親指大以上のヘルニア塊が必要になるが、そういう症例を経験しない。
- 物理的な圧迫が存在するのなら体勢をどのように変えても痛みが持続するはずだが、椎間板ヘルニアの場合、ある一定の姿勢で症状が出現しやすい。
- 直接圧迫による症状であるなら、脊柱管が狭窄を起こす高齢者にこそ多いはずだが、椎間板ヘルニアは主として中年以下で起こることが多い。
- ヘルニア塊が馬尾を直接圧迫するというのなら、当然多根症状を示すはずだが、椎間板ヘルニアの症状は単根性の症状が中心である。
ヘルニアが神経を直接圧迫することによって症状が出るというおとぎ話を、一旦頭から消し去るとすれば、外科的にヘルニア塊を摘出すると症状が改善するという単純な発想を改めなければならないことがわかります。どう改めるか?は後述するとして、今はヘルニアがどのようなメカニズムで神経を損傷するのか?考えましょう。
肘部管症候群と椎間板ヘルニアの共通点・相違点
肘部管症候群 | 椎間板ヘルニア | |
原因 | 肘部での圧迫(尺骨神経の張力によって起こる圧迫) | ヘルニアによる圧迫? |
炎症部位 | 圧迫箇所(肘) | ヘルニア部? 後根神経節 |
再現 | 肘を屈曲でしびれ出現 | 下肢挙上で痛み出現 |
病初期 | しびれ | 痛み |
癒着 | 高度 | 軽度 |
受容体 | 圧迫部位に疼痛の受容体が存在しない | |
張力 | 神経に強い張力がかかっている(テンションサイン(+)) |
肘部管症候群と腰部椎間板ヘルニアは、神経が圧迫されるという同じ原因によって生じますが、その症状は全く異なります。肘ではしびれ・麻痺、腰では痛みです。しかし、両者共に神経の圧迫部位に疼痛の受容体が存在しません。圧迫箇所に疼痛受容体がないのだから痛みではなくしびれが中心である肘部管症候群は理屈が通っています。しかし、腰椎椎間板ヘルニアの症状が痛みが中心であることは理屈に合いません。よって腰椎椎間板ヘルニアの痛みの原因は圧迫部分にあるわけではないという理論展開をしなければなりません。
すなわち、腰椎椎間板ヘルニアで激痛が走る原因は圧迫部位にあるのではなく、後根神経節にあるという結論になります。後根神経節には疼痛受容体が極めてたくさんあることが判明しています。
また、神経への圧迫が主原因だとすると、圧迫部位には癒着が必須ですが、椎間板ヘルニアではヘルニアと神経根の癒着が肘部管に比して軽度であることから、椎間板ヘルニアでは圧迫が主原因とは思えません。
両者に共通しているのは神経の張力が強いという1点のみです。すなわち、椎間板ヘルニアの病態生理は、神経への圧迫ではなく、「神経への張力」が主原因であるとの見解に達します。そして、上の表の赤字は理屈に合わない箇所です。腰椎椎間板ヘルニアの場合、原因は張力であり、ヘルニアはあってもなくても起こり得るという点が現脊椎学の考え方との相違点です。そして炎症を起こす箇所はヘルニアによって圧迫されている部分ではなく、後根神経節であるという点も現脊椎学との相違点です。
考えてみればわかりますが、肘部管症候群では肘部管に圧迫する要素がありません。ガングリオンなどが発生している場合もありますが、主原因は圧迫ではなく、神経に強い張力がかかっていることです。ヘルニアでも同じことが言えるのです。
もう一度言います。腰椎椎間板ヘルニアの主原因は神経根に加わる張力であり、ヘルニアは「あってもなくても無関係に起こる」ということが新知見です。そして症状の主体はヘルニアによって押されている部分ではなく、後根神経節の炎症であるという新知見です。神経に張力がない人は、ヘルニアがあっても痛みは出ないのです。神経に張力がある人はヘルニアがわずかでも痛みが出ますし、ヘルニアがなくても痛みが出ます。神経の張力が高いという病態が主原因であり、ヘルニアはその張力を高める一つの手段でしかありません。
この新知見でしか、腰椎椎間板ヘルニアで激痛が起こる理由を説明できません。図説本の解説は間違いであるという結論になります。しかしながら椎間板ヘルニアが慢性化すると、ヘルニアでの圧迫部分で癒着が起こり、その癒着によって初めて神経の拘縮が起こります。この拘縮によってしびれや麻痺が起こります。よって痛みは後根神経節の炎症をブロック注射で低下させれば治りますが、しびれや麻痺は手術的に拘縮を解除させてあげなければ治りにくいという理屈が生まれます。
椎間板ヘルニアがなぜ単根障害なのか?ということを脊椎外科の先生方には真剣に悩んでいただきたいのです。何度も図示しましたように、ヘルニア塊が数十本もある馬尾神経の中から一本だけを単発で炎症を起こさせるということができるかどうか?を真剣に考えてみてほしいのです。もし、そんな非科学的なことを可能だと考えるようなら図説本の教えに相当影響されているかもしれません。
椎間板ヘルニアが単根性の症状を呈する理由は解剖学的にはたった一つしかありません。それは神経が分岐してからその神経が障害を受けるということです。しかし正中、傍正中のヘルニアでは神経が分岐する前での圧迫です。にもかかわらず単根性である状況を説明するためにはテンションを受ける場所と炎症を起こす場所が違うと考えるしかありません。そして腰部椎間板ヘルニアの主症状が痛みであることを考えると、その原因は疼痛受容体の存在する椎間孔部(後根神経節)しか考えられません。
図説本のおかしさは20年前から言われている
図説本の理屈に合わない点は実は私が述べなくとも20年以上前から指摘されています。しかしながら、その疑問点の言論はことごとく抹殺されてきた歴史があります。偉大な教授の理論にケチをつけることが医師の世界では許されないからでしょう。
整形外科医なら誰でも知っていることですが、ヘルニアが疼痛受容体が存在しない場所で神経を圧迫して「なぜ痛いのか?」という疑問視の言論が、「異所発火説」によって抹殺されてきた歴史があることを。異所発火説を証明するために世界中で犬が動物実験で使用され、殺されてきた歴史を。そこまでして抹殺してきた理論、そこまでして擁護されてきたヘルニア圧迫疼痛説、だからこそ、私のようにはっきりと図説本が間違いであることを指摘する医師が出てこなかったと言えます。
ちなみに異所発火は神経周膜が再生される時に発生する電位であり、神経が壊死するレベルまで圧迫されない限りそういう発火は起こりません。もしも、そういう異所発火が普通に起こるのでしたら、肘部管症候群は激痛を伴うことになりますが、そんな事実はありません。また、神経が壊死するほどに圧迫を受けるのなら、まず第一に麻痺が起こります。腰椎椎間板ヘルニアの症状は痛みが初発ですから、そんな事実もありません。少し考えるだけで異所発火説が誤りであることはわかりますが、世界中で犬が殺されてきた怨念でしょうか、異所発火説の理屈に合わないところを指摘する医師が出現しません(私を除いて)。
椎間板ヘルニアは椎間孔不安定で生じる
椎間板ヘルニアのメカニズムを考える前にこの疾患がどういうことがきっかけで起こるか?の誘因を考えてみましょう。重いものを持とうとした時のぎっくり、軽い前傾ととっている際のくしゃみなどです。これまで私たちはぎっくりやくしゃみと同時に椎間板の髄核が線維輪を押し破って出てくるのだという”さもありがち”な固定観念を元に、こうして出現したヘルニアが神経を損傷して症状が出るのだと考えていました(考えている先生方が多いでしょう)。
しかし、何度も言いますが、椎間板高位の後方スペースはあまりにも広く、髄核が少々突出したところで、馬尾を圧迫することなど不可能です。しかもヘルニア自体、やわらかい組織です。そんなやわらかい組織で、しかも前方からの圧迫だけでどうやって神経を損傷できるというのでしょう。
そうではなく、くしゃみやぎっくりを契機に椎体が前後、または左右に急激に動き、その結果、瞬間的に強い張力が神経根に加わり、椎間孔で神経根が摩擦、またはインピンジし、神経根(とりわけ後根神経節)が炎症を起こす。炎症を起こした後根神経節は少ない刺激でも過大な症状を発する。これがメカニズムであり、神経根に張力が存在しない人は、たとえくしゃみで椎間板が突出しても痛み症状は出ないでしょう。
つまり椎間板ヘルニアの痛み症状は、ヘルニア自体が存在していたとしても、椎間孔で神経根が損傷を受けるという事件がなければ発症しないものと考えます(脊髄の後角で引き抜き損傷が起こることもある)。事件が起こるのはヘルニアが存在する場所よりも下位の椎間孔。下位であれば左右どちらの椎間孔ででもどの高位の椎間孔ででも起こり得ると考えます。これも新知見です。つまり、L3/4の椎間板ヘルニアでL5の神経根症が起こり得る(頻度は少ないが)と考えます。つまり、椎間孔での後根神経節の損傷が椎間板ヘルニアでの主原因であり、ヘルニア自体はそれを助長しているにすぎないと思われます。
もちろん、タクシードライバーなど、長時間前傾を強制させられる職業の人は、椎間板ヘルニアがあると仕事中長時間、馬尾にテンションがかかりつづけます。そういう場合は少ない張力が長時間かかることにより後根神経節に炎症が起こることは容易に想像できることです。
椎間孔インピンジメント症候群
椎間板ヘルニアで痛みが発生する仕組みとして、張力が有力であることを述べていますが、それが全てではありません。高齢者では身長の低下と共に神経根の張力は緩んできます。それでも高齢者はしばしば神経痛を訴えます。その理由は張力がなくとも、後根神経節が椎間孔で圧挫される(インピンジメント)からと考えます。
これは図説本の考え方とは全く異なる解釈です。椎間板ヘルニアを圧迫要素と考えるのではなく、椎間板の髄核崩壊→椎間板がパンク→椎間の全ての靭帯が緩む→椎間の可動域が増える→椎間不安定→椎間孔で後根神経節が挟まれる(インピンジメント)、という考え方です。
椎間孔でのインピンジは物理的に椎間板の線維輪の構造が崩壊した椎間板が存在する箇所で起こりやすいものです。線維輪が壊れ、その丈が縮むと椎体の前後屈の角度が大きくなるだけでなく、前後左右にすべり動くというような不安定さが生まれます。fig.09。さらに、椎間孔に変形がある場合、インピンジメントはわずかな動きで生じます。 <fig.09 椎間板が弾性力を失った場合の椎体の動きと椎間孔> 健常な椎間板では椎体の動きは制限されますが、椎間板の髄核が脱出し弾性力を失うと、椎間が狭くなり、周囲の全ての靭帯が緩みます。よって椎体の前後左右に滑る可動域が広がります。前方への動きは上関節突起により制限されますが、後方への動きを制限するものはありません。よって図のように後方すべりをおこしやすくなります。このとき、椎間孔は極端に狭くなり、神経根はインピンジメントをおこし損傷されます。
脊椎外科医の功罪
さて、私たちは腰神経痛を主訴に来院した患者様のMRIを撮ると、L4/5、L5/S1の両方に同じくらい突出したヘルニアを見つけることがたびたびあります。その場合、髄核摘出法を行うにあたってどの椎間を手術するのか?検討に迷う場面にしばしば遭遇します。しかしその場合、脊椎外科医はたいてい2か所同時に手術をしてきました。どちらのヘルニアも原因である可能性があるからです。
典型的な椎間板ヘルニアでは馬尾のテンションが高まりますのでヘルニアを除去することでそのテンションが解除され、症状が緩和することは理解できます。しかし、髄核摘出を2か所で行うということは、やがて将来、この手術患者様の椎間孔不安定が合計4か所で発生する可能性があることを意味します。
確かに摘出術施行後の数年はとてもよい結果を生みます。しかし髄核を摘出することで椎間板周囲の靭帯は緩み、将来的にこの患者様の神経痛は今以上、そして数か所に及ぶ可能性を秘めています。
しかし、髄核摘出術を受けた患者様の多くは数年で椎間板が激しく狭小化していくことを私たちは知っています。そして3~4年後には痛みが再発している場合が少なくないことも経験しています。神経痛が張力から来るという新たな概念が世界に広がれば、考え方が少し変わってくると思われます。
外側型ヘルニアはどこまで本当か
椎間孔の中に突出するヘルニアのことを外側型ヘルニアと呼んでいます。fig.10のようにヘルニア塊が神経根を圧迫すると考えられています。そして椎間板ヘルニアの説明用模型ではfig.10のように神経をヘルニアが圧迫して痛みがくるのだと患者様を説得できるように作られています。ここに出現したヘルニアは椎間孔という狭い所を占有するので神経根をダイレクトに圧迫し絞厄すると私たちはそう教えられます。この理論が変であると疑ってかかる医者はほとんどいませんが…しかしこれは解剖学的には実現がやや困難な話です。ヘルニアが出る場所はかなり限定されているからです。 <fig.10 椎間孔に出現した外側型ヘルニアが神経根を圧迫するモデル> 外側型のヘルニアは突出したヘルニアが神経根を圧迫する様子が一見して誰にでもわかるのでヘルニアを患者様に説明するためのモデルとしてたいへんよく利用されています。この場合、ヘルニアがL4/5に出現すればL4の神経根が損傷。L5/S1に出現すればL5の神経根が損傷
実際は椎間孔はfig.12のように上方に大きなスペースのある洞であり、椎間孔にヘルニアが突出したとしても神経根は上方に逃げます。したがって神経根をヘルニアでサンドイッチにしようとしても、そう簡単に挟まれてくれません。外側型ヘルニアは必ず椎間孔の下方に突出しますので実際はfig.12のようにヘルニア塊の上に神経根がのっかるようになるはずです。 <fig.12 ヘルニアが椎間孔に突出し神経根が上方に回避する様子> 椎間孔は椎間板の高さよりも上方に広く、椎間孔にヘルニアが突出しても神経根は上方に回避します。
椎間板狭小化のなれの果て
このように外側型ヘルニアでは従来、少しのヘルニア塊の突出でも激しい神経絞扼症状が出ると考えられていましたが、その考察は再検討を要すると思われます。実際には椎間孔にヘルニアが少々突出したくらいでは神経根を直接圧迫することはできません。
では、椎間板が狭小化し椎間孔の上下径が短縮して狭くなったらどうなるでしょうか?それを示したのがfig.13です。椎間板が完全に狭小化するとこのようになりますが、それでも椎間孔は神経根を圧迫しないだけのスペースを保持しています。同時に棘突起はぶつかり合うところにまで達します。ここまでくれば棘突起が最後のストッパーとなり、椎間孔はこれ以上、上下径を短縮させることがありません。それでも尚、ここに突出したヘルニアが神経根を直接圧迫することができません。それほど椎間孔は広いのです。ただし、この椎体が後方すべりを起こし、椎間関節が後方脱臼する程度に椎間が不安定になるとfig.14のように上関節突起が神経根を直接圧迫するようになります。 <fig.13 椎間板ヘルニアの最終形…これ以上椎間孔は縮まらない> 椎間板が最後まで狭小化したとしても椎間孔はスペースを保持しています。これだけ狭小化した椎間孔に外側型ヘルニアが突出したとしても尚、神経根が圧迫されずに存在できるスペースがあります。
<fig.14 椎間板最終形と後方すべりによる骨性の神経根絞扼>
高齢者にはしばしば認められる椎間狭小化と後方すべりです。このように椎間関節が脱臼を起こすと棘突起によるストッパーさえも効かなくなり、椎間孔は骨性の狭小化を起こします。さらに上関節突起に変形があると椎間孔は全く隙間がないレベルにまで達します。これが脊椎のなれの果てです。神経根がインピンジメントしています。
外側根靭帯の存在と張力
fig.12で示したように、椎間孔にヘルニアが突出するだけでは神経根は圧迫されません。神経根は椎間孔内を上方に移動してヘルニアから圧迫を受けることを回避できます。しかし、神経根は外側根靭帯と呼ばれる靭帯で椎間孔内に固定されていることがわかっています。この靭帯の存在により、神経根は上方に移動することをある程度制限されています。しかしながら、外側型ヘルニアの出現場所付近では神経根は上方に回避可能です。それを模式的に表したものが下のイラストです。 このイラストは椎間孔を神経根が通過するイメージです。椎弓根をやや斜めの前面断でスライスしたイメージで、グレー色が上下の椎弓根、茶色が外側根靭帯。スケールはグレーの台形の横幅が10mmです。スカイブルーの三角ゾーンが椎間板で、外側型ヘルニアの出現場所です。外側型ヘルニアは解剖学的にこの位置にしか出現することができません。赤がヘルニア塊です。神経根に張力がない状態が上段、張力がある状態が下段です。上段図のように神経根に両力がない状態ではヘルニアが突出しても神経根が上方に移動して回避します(右上図)。
このとき、外側根靭帯によって上方移動はある程度制限されますが、ヘルニアを避けるには十分な距離を動けます。一方下段のように神経根に緊張があるとヘルニアが存在していなくても椎間孔の中枢側で神経根は圧迫を受けます。それだけではなく、椎間孔の末梢側でも圧迫を受けます。さらにヘルニアが突出すると、神経根は強い張力の為にこれを回避することができず、圧迫を受けることになります。
ただし、外側根靭帯の存在のため神経根の上方移動の距離が制限されており、ヘルニア塊が大きいと下からの突き上げは回避不能ですから、神経根にかかる張力が低くても症状が出ます。
そして、外側型ヘルニアの症状の強さは、末梢からかかる張力に主に依存していることがわかります。つまり、FNST testやSLRで強陽性になるということです。
こうした仕組みを理解するには外側根靭帯の存在を整形外科医が認識していなければなりませんが、この靭帯の存在を認識している整形外科医はほとんどいません。なぜなら、一般的な解剖学書にはこの靭帯の存在が掲載されていないからです(2012年現在)。
こうした状況で起こる典型的な不幸は、イラスト左下のように、緊張した神経根が椎間孔の中枢側で圧迫を受けて症状が出現している場合。かつ、外側根靭帯よりも末梢の神経は緊張がない状態で、右上図のようにヘルニア塊を回避できている場合です。この場合、MRIで外側型ヘルニアを発見した医師は、「このヘルニアが神経根を圧迫して症状を発生させている」と必ず考えます。しかし、実際は神経根がヘルニアを回避しています。つまり、椎間孔の中枢側で圧迫を受けて症状が出ているのです。この患者を手術的にヘルニア切除を行ったとしても症状は改善されません。
このような不幸が起こる理由は二つ。術者が神経根の緊張で症状が出るという仕組みを知らないこと、外側根靭帯の存在を知らないことです。
再度申し上げますが、現脊椎学には神経根に加わる張力で症状が出現するという思考が欠落していますので、上記を満たす患者は手術被害者になることを免れることができません。
以下に椎間孔の中枢側で神経根が圧迫を受けて切痕が出来ている写真を示します。 New Mook 整形外科 腰部脊柱管狭窄症 p11より転載 上記のような患者の外側ヘルニアを取り除いても、症状は軽快しません。
ヘルニアがないのに激痛の症例
殿部から下肢にかけての激しい神経痛…こういう症状で外来を受診する患者様の数は想像以上に多いものです。激しい痛みのために医者につっかかる患者様もおられますが、そういった患者様に対し、MRIで明らかなヘルニアがなかった場合、先生方はどう対応されていますでしょうか?こういう症例は決して少なくないことは先生方の経験でよくご存じのはず。
いいえ、むしろMRIで巨大なヘルニアが見つかる患者の数の方が少ないのではないでしょうか。先生方は「MRIで何ともないからたいしたことはない。」と患者を必死に説得し、痛みを経口薬程度で我慢させて様子を見ようとしているのではないでしょうか。MRIで異常がないから何ともないとする考え方はまさに図説本の知識に毒されている証拠です。
患者が訴える神経痛の多くは、立ったり座ったり歩いたり姿勢を変えたりしたときに生じるファンクショナルな動的痛みです。このように動作時に椎間が大きく動き、骨性に神経根を損傷する瞬間を、静的に撮影するMRIで診断できるはずがありません。せめて、立位で痛みが出る患者様には立位でMRI撮影を、座位で出る患者様には座位でのMRIを施行する必要があるのは当たり前のことです。
それを静的に仰臥位で撮影するMRIで異常が出なかったからといって「あなたのヘルニアはたいしたことがない」とムンテラすることに疑問を感じませんでしょうか?
MRIで明らかなヘルニアがないにもかかわらず激しい痛みを訴える症例は、私の経験上半数以上を占めています。その患者たちはブロック注射さえしてもらえず、痛みを取り除いてくれる医者を求めてドクターショッピングしています。
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